I wasn't born yesterday. (1/2)


空気はかろうじて夜明けの静けさを引きずり、かすかな冷気をたもっていた。
これから日が飛び跳ねるように天空へ向かい、容赦のない熱気で街を包む。昼間の一番暑い時間帯を避けて練習しようという目論見のため、不動峰中学男子テニス部、夏期休暇中の朝は早かった。

集合時間前にして、部室のロッカーは全員分の荷物がすでに放り込まれている。早めに集まることが習慣になっている部員は、走り込みをしていたり、ジャージの尻や露出した肌が汚れるのもかまわず入念にストレッチに取り組むなどして、各々に自主トレーニングをしている。
それらすべての様子を確認した上で、橘は決まって一からのアップを命じた。基礎体操を怠らないことでプレー中のつまらない怪我を防止する、という方針は徹底されている。

柔軟を任された桜井が号令を発し、各自が黙々と身体を動かす。事前にある程度あたためられている身体たちは、しなやかに伸びた。

「ごー、ろく、しち、はち! あと二十センチ前出す気で! ほら鉄、息とめるな! いーち、にい、」

石田はアドバイスされたとおりに息を継いで、テニスシューズの爪先をどうにか触った。指先に乾いたゴムの感触が届き、やったと思った瞬間に背中にのし掛かる負荷が増した。体幹を包むように広げられた桜井の両手がじりじりと石田の上半身を前に押し出す。
柔軟は積み重ね。少しずつ柔らかくなっていく身体の限界を慎重に観察しながら、毎日わずかばかりその限界を更新する。つま先に触れた時、すかさず更に力を入れた桜井はよく見てくれていると思う。

「ろーく、しーち」
「ちょっ、死ぬっ! ばか深司やめろ! 橘さん! 死ぬっ!!」
「だらしねえなあ」
「そーだぜ神尾」

石田たちのすぐ隣で、伊武は神尾の身体を遠慮なく折りたたみにかかっている。自分の下で神尾がいくらわめいても力をゆるめない。神尾は爪先を楽につかめるほどに柔らかかったが、息を吐く間合いで押し込まれて常よりも深く身体が倒れていた。
意外な柔軟さを見せる橘が笑い、内村が後に続いた。内村に跨られた森は余裕なく小さくうなっている。

「はいオッケー。次、足開いて身体倒す。右から。いーち、」

一瞬の脱力を許された面々からため息に似た声が上がるが、桜井はてきぱきと次の指示を出す。早えよ、と呻いた神尾に、桜井は「少しでも練習時間長くしたいだろ」と笑った。誰からも反論は無い。
額にうっすらと汗をうかべた石田が柔軟をこなしながらの苦しい姿勢で見上げると、周囲を余念なく見渡していた瞳がふわりと降りてくる。どちらからともなく微笑み、頷きあった。
天気は快晴。暑くきつい一日になろうとも、テニスができる喜びには代え難い。


アップを完了し水分を補給した面々が集合する。自然と橘を中心にした円陣が形成されるのが、結束の形を表しているようで石田には嬉しい。一つの目標に向かって全員の歩調を合わせていくことの喜びを、この仲間たちと知った。
早く練習に入りたくてうずうずしていそうな顔、真剣に橘の声を聞く顔。それらを見ているだけで頬が緩みそうになる。
(いけないな)
意識して引き締めようとした瞬間、橘の言葉が無造作に石田を殴った。

「石田。ダブルスのコンビネーション、神尾とやれ」

石田はとっさに桜井を見た。桜井は頑なに橘を見つめたまま、ゆっくりとまばたく。気づかない振りをされているのだとはわかって、けれど、なにもできずに機を逃した。神尾が小さく口をあけている。

「今日はこんな感じでやっていく。しつこいようだがきつい時もドリンクは飲め。昼は一時間半、自由時間にする。自主練も良いが、休みはしっかりとるように。質問あるか?」

声は上がらない。目配せ、かすかなうなずき、あるいはまつげを震わせるだけの、ささやかなコミュニケーションが音なく飛び交う。

「よし。練習開始」

わずかな乱れを含んで空に放たれた各々の返事は、そのままばらばらとほどけて、地に落ちた。
ぬるみ始めた朝のグラウンドに人影は少なく、テニス部以外のどの運動部もまともに集合してはいない。そのなかで一そろいの号令と応じる声が、快晴の空に抜けていく。石田はその様が好きだった。誇らしくさえあった。
それが、今朝は。普段の不動峰男子テニス部は、このような、無様なものではないはずだ。


「深司、休憩んとき3セットだけやんねえ? ドリンク賭けようぜ」
「いいけど、それやって後半バテないでよね。石田に迷惑かかるから。っていうか神尾はお金持ってるの」
「なんで俺が負けるの前提なんだよ! ったく、見てろよ。ダブルスでもシングルスでも負けねーっての」
「こういう自信満々な発言されると叩き潰したくなるのは人の常だよな。別に俺が短気なわけじゃなくてさ。神尾はムカつかれて当然だよ。まったく、後で泣いても知らないから」

コートに入っていく神尾たちの声が通りすぎていく。石田はようやく、今日の練習で桜井とペアを組めないことを腹の底に沈ませた。アップで火照った身体がそこからじわじわと冷えていくようで身震いをする。
初めて、ではない。桜井と違う相手と組んでみることは。実戦練習を始めたころ、それこそほとんど全ての二年生とペアを試している。伊武と内村のダブルスがあまりに噛み合わなかったものだから、コート上で桜井と大笑いをした。順調に互いのカバーをこなしながらポイントを重ねる二人に、橘が「しばらく石田桜井は固定でいくか」と言ったのはその数日後だったか。

半ば呆然としながら練習をこなす石田の背中に、桜井の平手が飛ぶ。集中、と短く告げて離れていく姿に伸ばそうとした手も投げようとした声も、迷いによって実を結ばない。ダブルスが得意と自負していた桜井に、なにを言えばいいのだろう。かけられる言葉を探して途方に暮れる。
自分はパートナーではなかったのか。こんな時に言葉一つかけてやれなくて、なにが。


石田の身体はテニスの動きを覚えていて、集中を欠いた状態でも勝手に動く。熱を吸い込みやすい色のジャージ、背中のフードが激しい運動にぱたぱたと跳ねた。手首に重い負荷がかかる。腰を捻って処理をした。打球の先で、待ち受けているのは誰だろう。

大丈夫だ。きっとまた一緒に組める。試すだけかもしれないし。
こんな言葉で桜井は慰められるのだろうか。


「石田!」
後ろから駆け込んできた森に腕を掴まれ、体躯に見合わない力強さで引き戻される。よたよたと下がりながら、今は入れ替わり式のボレー練習だったか、とぼんやり思う。森は石田を置き去りにして、前方に刺さる球を危なげなく掬った。頬のラインを伝った汗を拭ったら、いつの間にかすりむいていたらしい手の傷にしみる。コートの外まで退いた石田のすぐ横から疾風のように神尾が飛び出していき、打ち込まれるボールに食いついていく。

桜井は、悔しいだろう。俺と神尾が上手くやれたら。できなくても、きっとつらい。俺が桜井の立場だったらそう思う。自分の価値はなんだろう。そう、思う。

神尾の手元から小気味の良い音と共に描かれる弧を、視線で追う間はない。球が飛んでくる。軽く曲げていた足がコートを蹴る。なんとなく身体が動いて、腕の先につながったラケットがうなった。そこに意志はない。
乾いた打球音。

「あっ」

「あー、やったね……」
「おいおい。場外ホームランも良いとこだぜ」
森と神尾が高くあがった球を見上げてつぶやく。テニスコートを囲うフェンスを越え、グラウンドにボールを転がすなんて最近は久しくやらなかった失態だ。

「すみません。拾ってきます」
「構わねえが、もう昼休憩に入るぞ? 食べてから行ったらどうだ」
「いや……ついでに頭冷やしてきます」
「気合い入れてくるの間違いだろ、石田さんよー。しっかりしろよな」

内村に返す言葉がでない。軽い調子を装いながら、叱咤をごまかさない声。石田が正当性を認めるだけ、厳しく聞こえる。オーダーでたびたび後ろに回される内村の努力を誰もが知っていて、フォローは入らない。内村だけではなく、この場にいる全員が全国大会のために時間を惜しみ、悲鳴を殺し、練習している。集中していないことを注意されるのは当然のことだ。内村が言わなければ、ほかの誰かが言っていた。
思い思いにボールの行方を見ていた面々が視線を投げてくる。すぐとなりから、あるいは、ネット越しに。石田は血液がぐっと顔に集中するのを感じてうつむいた。
桜井も、見ている。走り回って乱れた髪を軽く梳くようにかき揚げるいつもの仕草のなかに、石田にわかるだけの、困惑と心配の色がある。相方の問いかける視線から逃げて、石田は大きな体を縮ませるようにうなだれた。

誰もなにも言わなかった。
球出しをしていた伊武がラケットでボールを繰り返し弾ませ、その単調な音が沈黙をさらに強調する。いたたまれない。

「ったく、しょうがねえな。走ってこい。他は球拾って休憩入るぞ」
黙って様子を見ていた橘がなんでもない調子で手を振った。それを幸いに、石田はコートを駆け足で出た。少し先で、グラウンドの表面が淡くゆがんで見える。あたりはすっかり熱っぽく湿った空気に満ちていて、石田をぶわぶわと包み込んできた。先ほどのやりとりで、顔ばかりが熱くなり、反面、身体のほうは血が引くのと同じ勢いでいやな汗が噴き出していた。すぐにジャージが吸い取ってくれたが、湿っぽくなる。
ぼんやりしていた頭を切り替えるように一度深く呼吸して、その後は少し早いペースで球が飛んだと思わしき方へ向かった。黄色いボールの輪郭すら、陽炎でとろけて崩れそうだった。

午後は絶対に、集中しなければ。部員全員が望んでいることはそれしかない。石田が集中して練習に参加すること。これ以上気が抜けたままあの場にいたら、「今日は帰れ」と言い出されても反論はできない。


砂砂利のグラウンドに転がっていたボールを拾い上げる。軽く手のひらで叩き、絡みついた砂を払った。テニスボールはつい最近くたびれてしまったものを選り分けて、新品を補充したばかりだ。部の備品はいつだって不足している。
コートの方を見やると、伊武と神尾が打ち合っている他は姿がなかった。橘の宣言通り、休憩の時間になったのだろう。
ジャージにきれいになったボールを押し込んだ。
グラウンドから校舎裏を回るコースを走ってから戻っても、弁当を食べ、筋トレをする時間はある。

「行くか……」

両手で頬を軽く張る。
走っていると、あまり他のこと考えなくなるから良い、と神尾は言う。石田はその感覚を理解できない。一人でも集団でも、自分の近くから遠くのことまで様々なことに思いを馳せてしまう。
無理に考えないようにと目をそらしているよりも、とことんまで考えこんでしまった方がいい。ジョギング中によく考えごとをするという桜井は照れくさそうに語ってくれたことがある。内面のことを打ち明けるときの恥じらいにも、そして走っている最中の思考についても、石田はよくよく同意している。

日差しが厳しいのは確かにつらかったが、途中で水道に立ち寄ることもできる。一度軽く膝を曲げ延ばしして、普段のペースを意識して走り出した。



コートに戻ってくると、神尾がひっくり返っていた。ラケットを傍らに横たえて、ごろごろと緩慢に姿勢を変えている。

「遅かったなー」
「ちょっと走ってきたからさ」
「ほんっとに、暑いのによくやるよ」

足音で気づいていたのか、神尾は石田の接近を視認しなくても声を上げた。一瞥もされないまま放られる言葉に軽蔑の響きはない。物好きの同類であることを、単純に面白がっている。
声がよく聞こえるようにと石田が横にしゃがむと、地面はもっと暑いぜ、と笑われた。

汗にまみれた額から前髪を乱暴に押しやって、神尾は大きく息をはいた。薄い胸が上下している。ミニゲームの相手をしていたはずの伊武の姿は見えない。

「シングルスの勝負勘鈍らせんなって、言われた」

帰りコンビニ寄ろうぜ、と言いながら起きあがる神尾の顔は妙にすっきりしている。

「石田よう」
「ん?」
「俺とお前。ダブルス、任される覚悟決めようぜ。やるからにはな」

神尾の言葉は、受け止めるのに苦労する重さをともっていた。部員からなにかとからかわれては騒がしく駆けまわっている彼は、一方で不動峰のエースという肩書きを伊武と分けあっている。地区大会のころから背負った勝利への期待に、彼は常に向かい合っていた。いつだって答えようとすることをあきらめない。

ダブルスを、任される。本当は、桜井と、そういう立場になりたい。橘から、チームへの一勝を、明確に期待される。責任と、信頼を、背負う立場。石田の横に選ばれなかった、親友の顔がよぎる。
神尾だって、シングルスが得意なプレイヤーだ。性格も、その様をはっきりと表している。神尾は、自分のペースでやることが、好きだ。今、皆が食事をとっている時間に、ごろごろと、汗が体中から吹き出すにまかせて、転がっているのも、それだ。そう、石田は考えている。
そんな神尾が、寄り添おうとしている。
歩調を変えてでも。
全国で、勝ちあがる、ために。
それは、なぜ。自動的に、勝ちを求める。そんな意志が、どこかにある。コート上か、もしかしたら、一人一人の、心臓の近くに。

「ああ、もちろん! 絶対、勝とうな」

勝利を、たった一つの絶対的な強さの証明を、真摯に追い求める神尾の視線にさらされて、石田は笑ってうなずいた。

自分の、心臓の近くにも、それは埋め込まれて、今このときも動いているのだろうか。胸が、こころが、奇妙に痛む。呼吸、脈動、ひとつひとつ、繰り返されることへの、わずかな違和感が、石田の笑顔を、ほんの少しだけくすませる。神尾には気づけないだけの、あわい陰り落ちた目で見上げた空から降り注ぐ光が痛く、石田は静かな息とともに視界を閉じた。
体を巡る血の熱が、陽光に温められるジャージのそれと混ざって、からだの輪郭、自分の、心の持ちようの外側が、じわりと、にじむ。


「勝つんだ、俺たち、で……、」
神尾が去り際に残した独り言を繰り返した。
俺たち、って、さ。
(誰のこと)



沈み込んでいく思考に耳を傾けるには、暑すぎた。神尾の言ったとおりに、地面は熱気が溜まっている。
ぼんやりとした頭からもやを振り払おうと身体をひねったところで、頭上に影が差した。いつの間に入ってきていたのか、ラケットを脇に挟んだ伊武が髪を揺らして石田を見下ろしている。

「ねえ。コート使いたいからどいてくんない」
「……ああ、ごめん」
「さっさとお昼食べてくれば。桜井外周走りにいったよ」

なんでもない口ぶりで付け足されたことに戸惑っていると、伊武はさっさとボールが満たされたカゴを取りに行ってしまう。そういえばと思いだし、ポケットに収まったままだったボールを放って戻す。片手に取り下げられたカゴに飛び込んできたボールの衝撃に、伊武の目がちらりと動いて石田を刺した。ひやひやと殺気だった気配に、伊武の矜持は、もし橘の眼前でフェンスを越えてボールを飛ばすようなことをしたら、きっと平気な顔で帰ってくることを許さないのだろうと、気づいた。
そのときになって、伊武の苛立ちが陽炎のように彼のうすい身体から立ちのぼるような錯覚を覚えた。それが本当に錯覚かどうかは、気にならず、ただ、その直感の正しいことだけは、みずっぽい膜に覆われた伊武の目元が異様にかがやき、鋭くなっていることで、知った。

「……あのさ」
「なに」
「ちょっとだけ、打ち合ってもらっていいか」

身振りだけの返事にうなずいて、石田はネットを挟んで伊武と向かい合った。
遠慮のない陽光、そしてコートからの照り返しが黒いジャージに包まれた身体を痛めつけるように挟みこむ。たちのぼる陽炎のなかで、ボールの小さな影がふたりの間をものも言わずに行き来する。

いつの間にか現れた内村が、しゃがみこみ、勝手にカウントをとり始めた。

石田が三回返しそびれたところで、伊武はそれまで動き続けていた足を止め、ラケットの縁でボールをするすると遊ばせる。

「こんなもんでしょ」
「そうかな」
「……自惚れるなよな」

ふいと顔を背けた伊武は、石田がありがとうといったところで、なにも返してこなかった。
内村も、なにも言わなかった。動かずともふきだすだろう首筋の汗を手で拭い、そのしずくを振り払う。帽子の影からひっそりと石田を睨んでいる。


ふたりの視線を感じながら、石田は部室に向かい、途中、すれ違った森から、昼飯時に桜井が差し入れた菓子があることを知らされた。
彼がうっすらと浮かべたほほえみのような口元のゆがみが、やけに見慣れないように感じる。
その違和感を追求する間もなく、森はすいと石田の脇を抜けていった。
決して大きくはない体躯の、迷いのない足取りがコートに向かう様を、しばらく目で追っていた。どうして、あのように歩けるのか、顔を上げ続けられるのか、一度彼に問いかけてみたいようでもあり、しかし、止まった足を、同じ方向へは踏み出していけなかった。
森には、なにかそのようなところがある。柔らかい拒絶の空気は、石田を部室へ押しやる。



外とほとんど変わらぬ暑さ、下手をすれば常によどむような湿気に体感温度は高く感じる部室では、神尾が膝の上に雑誌を広げ、橘はノートになにやら書き込みをしていた。ベンチに腰掛けている二人の間に、ていねいに広げられたちり紙があり、その上に小さな菓子があった。淡い紫の包装に黒々とした墨が流れ、手に取ると見かけよりも重みがある。
「お前、あんこ苦手だったか?」
「え、桜井んなこと言ってなかったですよ」
朝、柔軟を行いながら、桜井は石田に耳打ちをした。土産もので、おいしい和菓子を持ってきた、と。
当然一緒に食べるものだと思っていて、しかし、桜井は、石田の分を取り分けただけで部室を出ていった。石田も、桜井が部室にいる時間、それと知って、近寄らなかった。
なかたがい、すれちがい。
そう、見えるだろう。特に気にする様子のない、二人の会話が少しだけわざとらしく響くのは気のせいだろうか。
けれど彼は、桜井は、甘い菓子を柔らかな紙の上にとりわけてから、ここを去った。

「大丈夫です。……いただきます」
「おうっ」
「おまえに言ってないのに」
「んだよ、桜井のかわりだろ」

橘の鉛筆がとまり、包みを開きかけていた石田の指先の、短く切り込まれた爪が柔らかな紙にすべって、かさりと音を立てた。神尾は雑誌から顔をあげず、汗で張り付く前髪のなかに手をつっこんで、自分が言った言葉のことなど忘れてしまったように無関心に背を丸めている。

石田は手の中の包みをそっと自分のロッカーの端においた。言うべき相手を間違えてはいけない、と。

「……そろそろいくか」
橘の声で、それぞれが立ち上がり、蒸し暑い部室を後にする。
一切の加減が排除された練習が、炎天下のもとに再開された。七人分の気炎が、太陽を貫かんばかりにするどく立ち昇った。







20121217

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